調査の結果、どうしても提訴条件を満たさない、という方は、少なからずおられることと思います。たとえば、生年月日が昭和16年7月1日以前の方は、今回の基本合意の枠組みでは、いかに努力していただいても、原告になっていただくことはできません。他方で、提訴条件の中には、医療記録の収集など、提訴希望者の方々の調査や努力次第では、乗り越える可能性があるものも含まれています。
本項では、「自分は提訴条件を満たさないのではないか」と考えている方々に、提訴条件を本当に満たしていないかどうかの最終チェックを行っていただくとともに、最終的に残念ながら提訴条件を満たさないことがはっきりした場合にどのように考えれば良いのかについて、弁護団の立場をお伝えいたします。
「提訴条件を満たさない」と考えていらっしゃる方々へ
(提訴条件の最終チェック)
→ 母子手帳は、提訴の必須条件ではありません。
母子手帳がなくとも、予防接種を受けた場所についての陳述書、予防接種痕が存在することについての医師の意見書などの代替資料を提出することにより提訴・個別和解は可能であり、実際に何例もそれで個別和解が成立しています。
これらの代替資料は、いずれも準備するのは容易なものばかりです。
母子手帳がなくても、安心して弁護団にご連絡ください。
→ 母親または年長のきょうだいの医療記録は、提訴の必要条件ですので、 いずれも見つからない、という方は提訴できません。
ただ、母親・年長のきょうだいの医療記録が見つからないからといって、簡単に諦めてはいけません。
母親・年長のきょうだいが、亡くなる直前に入通院されていた病院だけでなく、それ以前に通っておられた病院にも医療記録が残っていないか、問い合わせてみるべきです。
弁護団で実際にご相談をお受けした事例でも、母親が死亡した際に入院していた病院では医療記録を廃棄しており提訴は断念するほか無いのではないかと思っていたところが、その前に通っておられた病院から幸運にも医療記録が見つかった、などということがいくつもありました。
諦めないで、医療記録を粘り強く探してみてください。
提訴条件を満たさない方へ
様々な努力を行っていただいたにもかかわらず、どうしても提訴条件を満たさない方については、非常に残念なことではありますが、少なくとも、平成23年6月28日に成立した基本合意の枠組みによっては、救済を受けていただくことはできません。
ただし、我々全国B型肝炎訴訟弁護団は、提訴条件を満たさない皆様について、このままで良いと考えているわけでは決してありません。
2011年(平成23年)12月9日、全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団の運動の成果として、B型肝炎特別措置法が成立しました。
同法が成立するにあたっては、下記のような附帯決議が行われました。
感染被害者を含む肝炎患者等が、不当な偏見・差別を受けることなく安心して暮らせるように、集団予防接種等によるB型肝炎ウイルス感染被害者が相当数に及んでいることを含む情報の提供、ウイルス性肝炎に関する正しい知識の普及など、国民に対する広報・啓発に努めること
集団予防接種等によるB型肝炎ウイルス感染被害者の救済手続に関する国民への周知、集団予防接種等の際の注射器の連続使用を含む様々な感染可能性を明示した上での肝炎ウイルス検査の勧奨、肝炎医療の提供体制の整備、肝炎医療に係る研究の促進、医療費助成等、全ての肝炎ウイルス感染者に対し、必要な恒久対策を引き続き講ずるように努めるとともに、とりわけ肝硬変及び肝がんの患者に対する医療費助成を含む支援の在り方について検討を進めること(色付けは弁護団)
色付けを施した箇所をお読みいただければご理解いただけるとおり、この附帯決議は、提訴条件を満たす者のみならず、全ての肝炎ウイルス患者・感染者について、不当な偏見・差別を受けることのないようにするための情報の提供や正しい知識の普及に努め、また医療費助成を含む支援の在り方についても検討を進めるという内容の決議になっています。
これは、全国B型肝炎訴訟原告団・弁護団が取り組んできた活動の大きな成果の一つです。私たちは、提訴条件を満たす方の救済のみにとどまることなく、提訴条件を満たさない方々についても何らかの形で救済の途を広げるべく、今後も努力していきたいと思っています。
もっとも、こういった目標は、原告団・弁護団の活動だけでは実現することは困難です。
国の肝炎対策を最も切実に必要としている皆様の声が上がらないことには、国会や政府は、決して重い腰を上げることはしないでしょう。国を動かすのは、何よりも、皆様お一人お一人の声なのです。
B型肝炎訴訟の原告団・弁護団は、これからも、広くウイルス性肝炎患者の方全員の救済につながる恒久対策が実現されるよう、様々な形で活動を行っていく予定です。
皆様方は、こういった活動に少しでもご参加いただき、シンポジウムでの発言や弁護団会議署名活動を通して、国会・政府に対して皆様の声を届けるように努力していただきたいと思います。
肝炎患者が暮らしやすい日本を、ともに創っていきましょう。