本日の札幌地裁判決に対する弁護団声明(2022年3月11日)

1 本日,札幌地方裁判所民事第5部(廣瀬孝裁判長)は,原告2名について,HBe抗原陰性のB型慢性肝炎の発症から訴訟提起までに20年以上が経過したとして,除斥期間を適用し,原告らの請求を全部棄却する判決を言い渡した。

本判決は,原告らの被害実態に向き合うことなく,除斥期間を形式的に適用して原告らの被害救済を拒んだものであって,満身の怒りを禁じえない。

2 本件の争点は,除斥期間の適用の是非である。被告国は,原告らがはじめて慢性肝炎を発症した時点が除斥期間の起算点になるとして除斥期間の経過を主張した。

しかしながら,原告らは当初の慢性肝炎の発症後に肝臓の線維化が進展することで,新たに投薬治療を開始するなど,当初の慢性肝炎の発症時に比して,多大な損害を被ってきた。特に肝臓の線維化の進展は,それにより将来の肝細胞がんの発がん率が上昇すると報告され,また,治療方針を決定するうえでも重要な指針と扱われており,線維化の進展の前後で医学的な扱いは異なる。

そのため,原告らは,肝臓の線維化が進展し,また,新たに投薬治療を開始した時点を除斥期間の起算点とし,除斥期間の適用を否定すべきと主張してきた。

3 本判決は,慢性肝炎による肝臓の線維化の進展等は,HBe抗原陰性の慢性肝炎という同一の病態・病期から一般的に生じ得る変化が生じたにとどまると認定したうえで,除斥期間の起算点はHBe抗原陰性の慢性肝炎発症時であるとし,除斥期間の適用を認めた。本判決は,誤った認定を前提として除斥期間の適用を認めたものであり,明らかな不当判決である。

本判決は,除斥期間の適用を可能な限り回避し,被害救済を図ってきたこれまでの最高裁判所の流れに明確に反する判決である。特にB型肝炎訴訟においては,最高裁第二小法廷令和3年4月26日判決がHBe抗原陰性の慢性肝炎の再発事例について,除斥期間の適用を否定し,被害者救済の姿勢を明確に打ち出しているのである。本判決はこの最高裁判決の姿勢を蔑ろにする判決というべきであり,法と正義に基づいて判断すべき司法の使命を放棄したものである。

原告らは,このような明らかに誤った判断に基づく不当判決に屈することなく,司法による是正を求めて,直ちに控訴する。

4 そもそも,何の落ち度もないのに,B型肝炎に感染させられ,損害発生から20年以上という長期に渡り被害を受けてきた被害者らに対し,時の経過のみをもって国の責任を免じるのは極めて不合理である。

もっとも,本判決の言渡後,裁判長は,B型肝炎の感染被害が長期かつ深刻であることを前提に,裁判体としての意見は令和3年最高裁判決の三浦裁判長の補足意見と何ら変わるところはないとして,国に対し,本判決に関わらず,感染被害者等の救済に当たる国の責務が今後も適切に果たされるべきと述べた。国は令和3年最高裁判決を受けて行われている福岡高裁での協議における姿勢を改め,除斥期間が問題とされている慢性肝炎被害の「迅速かつ全体的な解決」を図るべきである。

5 我々は,不合理な除斥の壁に立ち向かう被害者全員の救済を求めて,全国の原告団,弁護団,支援者と一丸となって闘い続ける決意である。

以上

2022(令和4)年3月11日